証券会社で働いて居ます

証券会社で働くOL達の日常を描いた物語です(・∀・)♡

女性の悲鳴しか聞こえなくなった理由

~ バーテンダー ~

 

 



出張先から帰店すると

 

未だ太陽は高い位置に在り

 

その光は私にとって

 

死を連想させるものだった……

 

 

我々のような

 

夜の仕事に従事して居る者で在れば

 

ご理解いただけることとは思うが

 

日中の太陽光は

 

一万本の槍にも匹敵するもので在り

 

翌日に私の葬儀が執り行われなかったことは

 

奇跡と言っても過言では無い……

 

 

通常で在れば

 

一度店内に入れば

 

もう太陽が見える時間に外へ出ることは無い

 

しかしこの日はどうしてもまた

 

一万本の槍が降り注ぐ店外へと

 

足を運ばなければならない理由が在った……

 

私は死を覚悟して

 

BARの重い扉を開いた……

 

万に一つの奇跡を求め

 

ローズマリーの佇む場所へ向かった……

 

ローズマリーの和名は万年朗

 

時間を止めることは出来ないかも知れないが

 

死の帳が下りるまでの猶予を

 

少しでも伸ばしてくれるかも知れないと

 

そう

 

思ったのだ……

 

 

ローズマリーを切り取り

 

次にトマトを茎から外す……

 

 

この間も私の軀は

 

一万本の槍に貫かれ続けて居り

 

何時倒れてもおかしくないような状況だった……

 

未だかろうじて動く足を引きずりながら向かったピーマンの集落で

 

私は……

 

 

狙いを定めた一人の首に刃をあてた……

 

 

ピーマンの叫び声が聞こえるはずだった……

 

しかしその叫び声は

 

ローズマリーが拭い去ったらしかった……

 

降り注ぐ一万本の槍に貫かれ続け

 

血まみれになって居る私の軀などには目もくれず

 

ピーマンの叫び声だけを

 

ローズマリーは拭い去った………

 

 

手も足も

 

まだなんとか動いた……

 

それを確認した私は

 

次の得物に狙いを定めた……

 

 

人参だ…

 

急がなければならない……

 

私は人参の髪を乱暴に掴み

 

今まで平和だったで在ろうその場所から引きずり出した……

 

 

人参が悲鳴を上げた……

 

流石のローズマリー

 

人参の悲鳴まで拭い去ることは出来なかった……

 

若い女の声だった………

 

私は血を流し過ぎて居た……

 

朦朧とする意識の中

 

何処をどう進んだのかなど全く覚えては居ない……

 

ただ気が付いたとき

 

私は薄暗いBARの厨房に立って居た……

 

 

手に握った小さな命……

 

それを奪わなければならないということに対する呵責……

 

 

私は冷凍庫の中から

 

殺害された後

 

更に切り刻まれて凍結させられた

 

動物の死肉を取り出した……

 

 

その凍った死肉が氷解するまでの間に

 

私は人参の……

 

あの高い声で悲鳴を上げた人参の………

 

髪をボイルした……

 

 

蓚酸という名の呪いを解く為だった……

 

死肉が氷解するまでには

 

未だ時間が必要な様子だった……

 

時を待つ間に私は

 

偶々目に付いた命の破片を

 

 

口に運んだ………

 

私の軀から流れ出た血液を補う為に

 

何か血の代わりになるようなものが無いかと

 

辺りを見回した……

 

私は輸血に於いて

 

生理食塩水が血液の代わりになるという知識を持って居た……

 

私は生理食塩水に

 

一番似た液体を経口摂取した……

 

 

女の髪を口に運んだ……

 

 

ほろ苦い思い出が口の中に広がった………

 

涙はもう出なかった……

 

また目に付いた命の破片も口に運んだ……

 

 

私には未だ血液が足りて居なかった……

 

ふと気付くと…

 

まるで陶器のように美しく

 

白い肌が私の傍に在った……

 

 

私はその肌に触れようとした……

 

しかし私は力を入れ過ぎた……

 

裂けた白い肌の中に……

 

想像しえなかったものが見えた………

 

 

恐らく幻覚に違い無い…………

 

出血により頭が朦朧として居た……

 

生理食塩水を

 

更に経口摂取することにした……

 

 

また幻覚が見えた……

 

幾つかの

 

或いは

 

幾つもの粒が……

 

仲睦まじく身を寄せ合って居た……

 

 

とても平和で

 

幸せそうな世界がそこに在った……

 

これが幻覚で無かったなら……

 

どれだけ良かっただろう…………

 

そう……

 

思った………………

 

 

時が流れた……

 

 

しかし死肉は未だ氷解しなかった……

 

幸いなことに未だ殺ることは幾らでも在った……

 

 

私は一万本の槍に貫かれ満身創痍のこの軀を労り

 

 

流れ出た.血液を

 

ひたすら補う為の努力を重ねた……

 

 

外で捕らえてきた者共を…

 

鉄の小部屋へ押し込んだ……

 

 

その間も

 

私の軀から流れ出た血液を補う努力は怠らなかった……

 

 

やっと氷解した死肉も同じ部屋に押し込んだ……

 

 

悲鳴が聞こえた……

 

 

外で聞いたのと同じ……

 

髪の長い女の声だった…………

 

 

やがで女の声は……

 

悲鳴というより

 

誰かを罵倒するような

 

叫び声に変わっていった…………

 

怯えるような男の声が…

 

女を落ち着かせようと…………

 

必死だった……

 

しかしそれでも

 

女の叫び声は治まらなかった……

 

その叫び声は……

 

悲しい結末の想像を禁じ得なかった…………

 

 

やがて女の叫び声が止まり……

 

 

静寂が訪れた……

 

 

残ったのは

 

唯独りの荒い呼吸音だけだった……

 

その荒い呼吸音も……

 

すぐ聞こえなくなった…………

 

 

もうすぐ全てが終わる……

 

そんな予感がした………………

 

 

こんな生活を続けて居たら……

 

10年もつ軀が半年もちはしない……

 

この日もそう思った……

 

初めてそう思ったその日から

 

もう10年以上の時間が流れた……

 

とも

 

思った……

 

確か10年位前も……

 

同じことを

 

思った…………

 

とも

 

思った………………

 

 

私の鼓膜に張り付いた女の悲鳴は

 

何層にも何層にも重なり

 

今もその厚みを増し続けて居る………

 

いつ頃からだったろうか

 

もう他の音は何も聞こえなくなった……

 

幸い勘は鋭い方なので

 

その勘を頼りに

 

お客さんやスタッフ等との会話は成立して居るが……

 

実際相手の声は……

 

私の耳に届いては居ない…………

 

聞こえて居るのは………

 

 

若い女の悲鳴だけ………………

 

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              TO BE COMUGIKO