証券会社で働いて居ます

証券会社で働くOL達の日常を描いた物語です(・∀・)♡

これは恋なのかも知れない

~ 追憶 産業医 津葦キリコ ~

 

 

 

今までの人生で

 

私は幾度となく拉致され

 

 

監禁もされてきた……

 

 

だから多くの場合

 

経験に裏打ちされた勘が働き

 

それを回避出来る……

 

そんなスキルを身につけて居た………

 

しかし

 

今回に関しては

 

そのスキルが全く役に立つことは無く……

 

頸動脈を圧迫されるのを感じた時には

 

もう

 

意識が遠のいて居た…………

 

 

 

目を覚ました時

 

私の軀は動かず

 

くちも塞がれた状態だった………

 

 

肘で相手の首を押すと

 

 

そこには

 

知った顔があった…………

 

 

「あ……

 もう起きちゃったの?……」

 

 

私が所属して居た課の班長で在る

 

杉原だった………

 

 

「ねえ…キリコさん………

 お金……持ってる?……」

 

荒い息づかいで

 

杉原がそう言った……

 

取引かと尋ねると

 

そうだと答える杉原……

 

幸いにも私は

 

暗殺業務の傍ら集金も行って居た為

 

今までにかなりの金額を懐に入れて居たし

 

それを元手とした株式投資にも成功して居た……

 

「いくら欲しい?」

 

「一億円」

 

「いいよ」

 

そう

 

答えた………

 

 

シャワーを浴びてから

 

二人で食事に行くことになった……

 

高級フレンチのお店で

 

全裸だった私はドレスコードを気にしたが………

 

 

その店ではスタッフもお客も

 

誰一人として

 

私の存在に気付いてなど居ないかのようだった………

 

 

アペリティフシャンパーニュで乾杯してから

 

杉原は言う……

 

「キリコさんが課長を殺害してくれたおかげで

 ぼくが課長に昇進出来たんだ

 だからぼくは今

 キリコさんを救う力を持ってる……

 キリコさんから一億円貰って

 ぼくがキリコさんを殺害したことにすれば

 キリコさんは

 もう自由になれるんだ……」

 

杉原の目を見る…

 

私を騙そうとして居るようには見えない………

 

以前からお金が大好きだと公言していた杉原……

 

「それともうひとつ……」

 

杉原が懐に手を入れた……

 

乾杯したのに杉原がシャンパーニュにくちを付けて居ないことから

 

私は杉原がその後に続ける言葉を予測して居た……

 

私の心拍数が跳ね上がる……

 

「結婚しよう」

 

え?

 

 

「君はぼくのカロン・セギュールだ」

 

そう言って

 

懐から出した指輪を私の前に置く杉原……

 

私の予測は外れて居た………

 

しかも杉原は

 

何故カロンなのかという

 

道筋を省略し

 

いきなり到達点ををくちにした…………

 

それはワインに詳しくなければ決して伝わらない

 

プロポーズのフレーズだった…………

 

 

その上ソムリエールが持って来たワインは

 

カロン・セギュールでは無く

 

シャンベルタン・グランクリュ

 

しかもヴィンテージは2009年……

 

私がワイン好きで

 

しかもシャンベルタンLOVEだということを

 

事前にリサーチして居たということなのだろうか………

 

もしそうで在るならば……

 

このプロポーズは……

 

本物……

 

 

いうことになる…………

 

そして

 

正直言うと……

 

杉原は

 

私の好みのタイプだった…………

 

 

「ねえ……

 そういえばどうしてあなたが

 課長になれたの?

 主任は?……」

 

「邪魔だったから殺害したんだ」

 

このとき

 

私の心拍数は

 

異常に跳ね上がって居た………

 

これは恋かも知れない……

 

そう

 

思った…………

 

 

ソムリエールが嫋やかにシャンベルタンを持ち上げ

 

杉原の頭上に振り下ろすと

 

ボトルが割れて

 

辺りに飛沫が飛び散った……

 

 

ああ……

 

なんということを…………

 

 

飛沫の赤は

 

ワインの赤か杉原の赤か…………

 

勿論その両方だった……

 

シャンベルタンの男性的で力強い香りを利きながら

 

杉原の首を切り刻むソムリエールの手にしっかりと握られた

 

ラギオールのソムリエナイフを見ながら……

 

私は泣いた…………

 

 

メートルが近付いて来て……

 

「いかがなさいましたか?」

 

 

言うので

 

「少し呑み過ぎたようです……

 タクシーを呼んでいただけますか……」

 

そう言ったら

 

メートルは杉原の骸をチラ見して

 

「かしこまりました」

 

 

笑顔で応えた……

 

急いでこの場を立ち去る必要が在った………

 

「いつから気付いてたんス?」

 

ソムリエールに扮したローズが言うので

 

「あなたがシャンパーニュを注いだとき」

 

そう答えた

 

シャンパーニュから

 

アーモンドの香りが立って居た……

 

ローズは杉原のグラスだけで無く

 

私のグラスにも

 

青酸カリを入れて居た…

 

私のワイン好きを知って居るからこその行動だと理解は出来たが

 

もし私の鼻が詰まって居たら

 

死んでたよ?

 

 

 

言うか言うまいか

 

迷って居る間に

 

ローズは私の手を引いて

 

 

出口に走り出して居た………

 

 

私の涙はいずれ止まるだろうけれど

 

今日のことを思い出して

 

また泣くことが

 

この先何度も在るだろうと思った……

 

こんなかたちの出会いで無ければ私は

 

きっと………

 

シャンベルタン・グランクリュ

 

ヴィンテージ2009……

 

よりによってこんな大当たり年の偉大なワインを…………

 

他にもボトルは

 

幾らでも在ったろうに………….

 

私の涙はまだ暫く

 

止まりそうになかった…………

 

 

               TO BE COMUGIKO

 

 

良いワインは決して邪魔の入らない落ち着いた場所でじっくりと味わいたい