証券会社で働いて居ます

証券会社で働くOL達の日常を描いた物語です(・∀・)♡

そして私は包丁を振り上げた

~ 心の中で 酒森 ~

 

 

 

目が覚めて……

 

 

琺瑯鍋の

 

蓋を開けた…………

 

 

すつかり仕上がって居り

 

その香りに

 

うっとりした…………

 

 

鯖戸先輩が目を覚ます前に

 

 

会社の同僚経由で知り合った

 

 

近所のおばあちゃんの畑へ

 

 

野菜をもらいに行った……

 

 

琺瑯鍋に

 

 

隙間が出来て居たので

 

 

菊芋とピーマンとハーブを追い……

 

玉(GYOKU)も落としてから

 

 

ストーブに火をつけた……

 

 

鯖戸先輩も私も

 

今日は宿直の振替休日で

 

仕事はお休みだった…………

 

 

サラダの用意はいつも通り

 

 

鯖戸先輩がしてくれた…………

 

 

いつもと変わらない

 

 

幸せな光景だった…………

 

 

でも

 

 

私の決心が

 

 

揺らぐことは…………

 

 

無かった…………

 

 

元は私が始めたことだ……

 

 

自分で始めたことは

 

 

自分で責任を取らなければならない…………

 

 

それが……

 

 

私の考え方だった…………

 

わたしの手で……

 

今夜わたしの手で…

 

全てを…終わりにするのだ…………

 

 

鯖戸先輩は

 

 

それが豆腐でもTで在る事に違いは無く

 

これはTKGなのだと主張した……

 

 

今の私にとっては

 

 

どうでも良いことだった…………

 

 

鯖戸先輩は

 

 

今私が考えて居ることを

 

 

知ってか知らずか……

 

 

ずっと上機嫌だった……

 

私達は

 

いつもと変わらず

 

食べて

 

呑んで

 

沢山話した……

 

気付くと窓の外はもう

 

暗くなって居た…………

 

鯖戸先輩の細い指が

 

私の肌に触れた…………

 

決心が揺らぎそうだった………………

 

 

琺瑯鍋に

 

 

少しだけ野菜を追った……

 

でもこれは

 

こんこん煮を続けるために

 

追ったのでは無かった……

 

追った野菜は

 

ジャガイモと人参

 

そして少しの白菜と

 

大根だけだった……

 

 

とろみは水溶き小麦粉

 

 

スパイスは

 

クミンとコリアンダー

 

ターメリックは少なめ…

 

唐辛子は鷹の爪と

 

少量のハバネロ……

 

全てパウダータイプで

 

あっさりと仕上げることにした……

 

もう後戻り出来ないところまで来て居た……

 

コンロに火を入れてから

 

流れる涙もそのままに…

 

 

私は言った……

 

 

もう終わりにしましょう……

 

と……

 

 

私は死を覚悟して居た……

 

あんなに愛して居た……

 

何よりも大切だった…………

 

鯖戸先輩にとっては

 

どうだったのだろうか……

 

言葉ではっきりと聞いたことは無かった…………

 

私は目を閉じた……

 

鯖戸先輩が

 

そのくちを開いた……

 

「そろそろかな……

 って……

 私も思ってた………」

 

鯖戸先輩は目を閉じて

 

ソファーに軀を横たえた……

 

私はすぐ包丁を手に取り

 

その手を振り上げた

 

そして息を止めて

 

 

振り下ろした……

 

ご存じ無い方も居られるかと思うので

 

説明するが

 

大根はカレーに入れると意外にも旨いのだ……

 

だからもう少し追加したいという欲求を

 

抑えることなど出来なかった……

 

 

お正月から続いたこんこん煮は

 

こうしてあっさりと

 

幕を下ろした

 

一滴の血も……

 

いや……

 

血を流したのは

 

チキンだけだった……

 

こんこん煮には鶏肉が不可欠なのだ……

 

ソファーで寝息を立てて居る鯖戸先輩を

 

ベッドまで引きずった……

 

刺青の隙間から覗く真っ白な肌には

 

彼女が人間で在る事を疑いたくなるような……

 

そんな美しさが在った……

 

窓から空を見上げると

 

そこにも真っ白で美しいものが浮んで居た

 

月明かりに照らされた鯖戸先輩の肢体を

 

もっと眺めて居たいと思った……

 

けれど風邪を引かせてはいけないので

 

毛布で包んだ……

 

私の部屋は

 

カレーの香りでいっぱいだった……

 

カレーの香りが新しい時代の始まりを予感させた……

 

私は玉(GYOKU)を一粒だけ落として

 

 

琺瑯鍋も毛布で包んだ……

 

鯖戸先輩の肢体を包んだのと

 

同じ柄の毛布だった…………

 

 

翌朝起きると鯖戸先輩はもう出た後だった……

 

ご飯を炊いて

 

カレーをかけて……

 

たべる前に

 

写真におさめた……

 

 

辛いものが苦手だと言って居た鯖戸先輩に


こんこん煮のプロローグを


せめて目だけでも


味わってもらいたかったのだ…………

 

けっこうカレーが跳ねた


               TO BE COMUGIKO