~ ホテルで フロントのひと ~
いつも一回目は
ドキッとする………
いい加減慣れろよと
毎回自分にツッコむのだが……
全然慣れない……
少しの間を空けて
今度は立て続けに三回……
今夜は全て命中したらしい…………
私は受話器の上に
手を置いた……
このホテルのマニュアルでは
2コールで受話器を上げることになって居るが
電話の相手が解って居る場合
その相手の性格に添った
臨機応変な対応が必要だと
私は心得る……
電話が音を発するか発しないかというその瞬間
私は受話器を持ち上げた…
「はい フロントです」
通常より声を張ってそう言うと
電話をかけてきた女は
「わたし」
とだけ言った…
「すぐに伺います」
と
また声を張ったあと
掃除用具入れから
女から預かって居るものを取り出し
階段を駆け上がった……
女はいつも
部屋の扉を少しだけ開けて待って居る…
私は頭を下げ
「どうぞ」
と言ってそれを渡した……
それからいつも通りチップを受け取ったが
厚みがいつもと違う……
「いつもより少し時間かかりそうなんだけどダメかな?」
と女が言うので
「いいですよ」
と
また声を張った……
女とやりとりして居る間中
部屋の奥から助けを呼ぶ声が聞こえて居たが
勿論今夜も無視して居た……
女は特に気にして居ない様子だったが……
いくら4回の銃声で耳を殺られて居るとはいえ
あれだけ大きな声で叫んで居るのに
聞こえて居ないはずは無かった………
頭を下げてフロントへ戻ろうとすると
女の細い腕が
するりと私の首に絡みついた……
女の唇が耳に触れて
「いつも現金だけじゃ飽きるよねぇ?」
と言う言葉が
私の鼓膜を揺らした……………
血塗れで床に寝て居る人間から
あれほどまでに人格を否定されたのは初めてのことだったが…
女の声のほうが大きかったので
さほど気にはならなかった………
血と硝煙と女の匂いが
ずっと軀から離れない夜だった…………
TO BE COMUGIKO